はじめまして、塗布工程の改善支援をしている三浦敦司と申します。
電子部品メーカーの生産技術部で18年間、接着剤やシール材の塗布ラインを担当してきました。
独立してからは、中小の製造業さんの塗布工程を見て回っています。
高粘度材料に対応したディスペンサーのカタログを見ていると、圧力の欄に「19.6MPa」といった数字が出てきます。
正直なところ、現場でこの数字を見て「だから何ができるのか」まで説明できる方は多くありません。
この記事では、この圧力の数字が現場のどんな症状とつながっているのかを整理します。
まず、19.6MPaは「押し出す力」そのものではありません
株式会社ナカリキッドコントロールのプランジャポンプ式ディスペンサー、P-FLOWシリーズHタイプの製品ページには、こう書かれています。
「ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高めることにより、高粘度樹脂の吐出ができます」
ここは正確に読んでおきたいところです。
「19.6MPaで吐出する」ではなく「19.6MPaの内圧に耐えるポンプにした」という記述です。
高粘度材料を押し出そうとすると、ポンプの内側には勝手に高い圧力が発生します。
その圧力に構造が負けなければ、材料は出ていく。
負ければ、漏れるか、壊れるか、そもそも動かない。
つまり耐圧の数字は「どこまで無理を引き受けられるか」の設計値なのです。
なぜ高粘度だと、そこまでの圧力が要るのか
円管を流れる流体には、ハーゲン・ポアズイユの法則という関係があります。
日本機械学会の機械工学事典に式が載っていますが、要点だけ取り出すとこうなります。
- 同じ量を出すのに必要な圧力は、粘度に比例して増える
- 必要な圧力は、管の半径の4乗に反比例する
2つ目が現場では効きます。
ノズル内径を半分にすると、理屈の上では必要な圧力が16倍になる。
「細いノズルに替えた途端に出なくなった」という話の正体は、たいていこれです。
粘度の側も見ておきます。
| 液体 | 粘度の目安(20℃) |
|---|---|
| 水 | 約1 mPa・s |
| グリセリン | 約1,499 mPa・s |
| P-FLOW Hタイプの対応上限 | 1,050,000 mPa・s |
水とグリセリンの数値はキーエンスの解説ページによるものです。
グリセリンでも水の約1,500倍ですが、Hタイプが想定している上限はそのさらに約700倍です。
なお粘度という値は測定方法とセットでしか意味を持ちません。
測定方法はJIS Z 8803として規格化されていますので、材料メーカーの数値を比べるときは条件も揃えてください。
工場のエアは0.5MPaしかない
もう一つ、対比しておきたい数字があります。
同社のエア圧送式ディスペンサーDCOP-SC1の圧力レンジは0.02〜0.49MPaです。
一方でP-FLOW Hタイプも、エア源自体は0.5MPaのドライエアを使います。
| エア圧送式 | プランジャポンプ式(Hタイプ) | |
|---|---|---|
| 液体を押す圧力 | 0.02〜0.49MPa | ポンプ内耐圧19.6MPa |
| 吐出量の決まり方 | 圧力と時間 | 計量室の体積 |
| 粘度変化の影響 | 受けやすい | 受けにくい |
工場のエアそのものは0.5MPa止まりです。
その空気圧をACサーボモータとプランジャで機械的に置き換えて、はじめて19.6MPaという領域に届く。
数字にすると約40倍の差です。
同時に、吐出量の決め方も変わります。
エア式は「何秒押したか」で量が決まるので、材料の粘度が変われば量も変わる。
容積計量式は計量室の体積で決まるので、粘度が動いても量が動きにくい。
高粘度材料でショットごとのバラつきに悩んでいるなら、圧力より先にこちらの違いを見たほうが早い場合があります。
高粘度材料に対応したディスペンサーの仕様は同社の製品ページで確認できます。
圧力を上げれば済む話ではない
ここが現場的にいちばん大事なところです。
Hタイプの説明には「特殊な材質を採用することにより、計量ポンプの耐摩耗性を向上させています」とあります。
裏を返せば、高圧とフィラー入り材料の組み合わせはポンプを削るということです。
高粘度の塗布で装置を選ぶとき、圧力以外に押さえておきたいのは次の3点です。
- フィラーの有無と粒径。摩耗と詰まりに直結します
- タンクから吐出口までの温度。冷えれば粘度は上がり、吐出不良や吸い込み不足につながります
- 材料に含まれる気泡。吐出が一瞬抜けてカスレになります
温度については、加熱で粘度を下げるという正攻法があります。
ただし2液性の材料だと温めた分だけポットライフが縮むので、そこはトレードオフです。
材料側の知見は日本接着学会のような専門領域にも蓄積がありますので、装置と材料は分けずに考えてください。
まとめ
19.6MPaという数字は、単体では「すごそうな圧力」でしかありません。
- 公式表記は吐出圧力ではなく、ポンプ内の耐圧
- 高粘度材料は物理的に高い圧力を必要とし、ノズルを細くするとさらに跳ね上がる
- 工場エアの0.5MPaでは届かない領域を、サーボとプランジャで作っている
- ただし圧力だけでなく、耐摩耗性・温度管理・脱泡がセットで必要
自社の材料が実際に吐出できるかどうかは、最後はテストするしかありません。
同社もテストルームで実機テストを受け付けていますし、申し込みの際には粘度を測定温度とセットで記入する欄があります。
その一手間が、導入後のトラブルをかなり減らしてくれます。